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東京家庭裁判所 平成7年(少)2362号 決定

少年 T・H(昭54.10.11生)

主文

少年を養護施設に送致する。

理由

(非行事実)

第1  少年は、平成7年1月20日午前11時ころ、東京都足立区○○町××番×号○○荘××号室A方において、B所有の現金3万1000円及びファミリーコンピューターカセット10本(時価5万円相当)を窃取したものである。

第2  少年は、小学校6年時頃から家出を繰り返してきたが、最近では、中学3年時の平成7年1月28日から同年4月28日まで家出し、その間、サウナで寝泊まりしたり、いわゆるパチプロと呼ばれる成人男性らと行動をともにし、頻繁にパチンコ店に出入りしてパチンコ遊技をするなどの乱れた生活を続けていたものであり、正当な理由がなく家庭に寄り付かず、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、その性格、環境に照らして、将来窃盗等の罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

第1の事実 刑法235条

第2の事実 少年法3条1項3号イ、ロ

(処遇)

少年は、小学生低学年時に実父母が離婚したため、その後実父と継母とともに生活してきたが、仕事中心の生活を送る実父は、家庭のことはすべて継母にまかせる結果となり、初婚の継母にとっても小学生の少年と中学生のその兄の二人の男子の母親となって家庭内での躾け教育を担わされた戸惑いがあったと思われるが、厳しい養育方針をとる継母の姿は少年にとって厳しさのみが目に映り、兄が間もなく全寮制の高校へ進学して家を出てからは、少年の生活態度、勉強、家の手伝いについての継母の要求が一層厳しくなったと少年は受け取るようになり、実父も結局は継母に同調して少年を叱ることになり、弱小感が強く、自分の考えや気持ちを表現することの少ない少年は、一方的に叱られ、時には体罰も加えられることもあって、実父や継母との間に温かな情緒的交流が生まれてこなかった。少年は小学6年次の終頃、両親に叱られて「出ていけ」と言われたことから初めて家出し、4日間野宿生活を送り、その後中学生となってからも叱られる度に家出し、その間友人宅に泊めてもらったり、野宿するようになった。

少年は、平成7年1月、高校受験が近づくにしたがい、勉強にも身が入らず、思うように成績も上がらず、これでは受験に失敗してまた両親に叱られるのではないかと不安な気持ちになり、以前家出中に知り合った「パチプロ」達の仲間に入れてもらえば、両親からも、高校受験からも開放され、気楽に生活できるのではないかと考え、勝手を知っている同級生の家に入って前記第1の窃盗の犯行に及び、盗んだ品物を売却して家出の資金を作ったが、家出をためらっているうちに、窃盗事件が発覚して警察から事情を聞かれる事態となり、その事情聴取の直後から家出し、前記第2記載のような生活を送ることになった。前記4月28日深夜、無灯火の自転車に乗っているところを警察官に発見され、職務質問の結果補導されるに至ったが、連絡を受けた保護者が引き取りを拒否したため、同日ぐ犯送致となり、観護措置決定となった。

少年は、小学生時の軽微な万引き非行と前記同級生宅での窃盗事件以外にこれまで特段の犯罪行為を起こしてなく、中学生時、家出による欠席はあるものの、それ以外に怠学はなく、成績も中以上の結果を出しており、校内での生活態度も良い評価を得ている。実父も、少年は家出以外に特に家庭内で問題を起こすことはなく、犬の散歩、掃除、洗濯などの家事手伝いもよくしており、家出さえなければ普通の子より良い子だと認めている。少年の家庭及び学校における生活態度、本件窃盗の動機・態様及びぐ犯事由・ぐ犯性等を勘案すると、少年の非行性は進んでいるとは言えない。

継母は、少年の度重なる家出及び今回の窃盗事件の発生で保護の意欲を失っており、今回もう一度家に引き取って親子関係の調整を含めて今後の少年の更生を図るとの実父の方針にも同意せず、結局実父も、少年の家庭への復帰は夫婦関係の破綻の原因になりかねないとし、当面家庭内での安定した保護環境の構築は困難であるとの意向を示している。

少年は、家庭に安心して依存できず、叱られても口に出して反抗できず、叱られることを恐れて萎縮して生活し、不満や鬱屈した気持ちが家出という形に現れており、安定した生活環境のもとであれば、積極的に非行に走る構えはなく、周囲の指導や働き掛けに従おうとする素直さを失っていない。今回は家出のため高校受験の機会を失ってしまったが、高校受験の意欲は失われていないうえ、高校進学の学力も備えている。

その他調査審判の結果明らかとなった少年の年齢、性格、行動傾向、学力、生活史、家庭環境、保護能力、非行性の程度等を総合考慮すると、この際は少年を養護施設に収容し、家庭に代わる受容的で安定した生活環境の下で、その健全育成を図るのが相当であると思料されるところ、高校未就学の高齢児ではあるが、前記のような家庭環境、高校進学の意欲等の特段の事情のある少年を受け入れることのできる養護施設の存在も認められるので、少年を養護施設に送致することとし、少年法24条1項2号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西村尤克)

〔参考〕 少年調査票〈省略〉

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